全国のモルックファンのみなさん、こんにちは。「全国モルックカレンダー」の運営メンバーのひとりであります、カクシトイスタ貝塚です。いつもご協力いただいている選手・団体・モルック愛好家の皆様にはお世話になっております。
今回はモルックのルールやレギュレーションについての考えを残しておこうと思っています。とはいっても、個別のケースにはあまり入らず、大枠として現状ある「ルール」「レギュレーション」を見直すことを考えてみませんか、という話をします。
モルックが競技性を増す中で現行ルールの曖昧さや運用の難しさが浮き彫りになっており、より公平で実践的なルールへの「更新」や審判制度の導入、情報公開の重要性を訴える内容です。
あえて具体例は少なめにするのでうまく整理できる自信はありませんが、ニュアンスの香りだけでも嗅ぎ取ってもらえれば幸いです。
- 前提:ルールとレギュレーションの区別
- このコラムで言いたいこと
- なぜ「今のルールを守る」ではなく、「ルールの更新」なのか
- 本当に運用ができるルールなのか?
- 運用が可能なルールに変更する
- 審判が試合に参加する
- 誰もがルールを知ることができるよう情報公開する
- 現在のルールについて
- おわりに
前提:ルールとレギュレーションの区別
おそらくモルックの大会に参加や開催に慣れ親しんでいる方は感覚的に認識できていると思うのですが、今回のコラム内では以下のように区別して説明します。
- ルール:日本モルック協会が発行しているルールブック(リンク)に記載されている、モルックの試合そのものに関する取り決め。
- レギュレーション:大会やリーグ戦ごとに運営によって考案される、予選通過条件やその試合の勝利条件に関する規定。
もっとざっくり言うと、「ルール」は「セット開始~ブレークスローを行い、いずれかの選手/チームが50点を獲得するまで」に対する決まりごとで、レギュレーションはたとえば「予選は4試合行いブロック内で2位までに入れば勝ち抜け」とか「準決勝は3チーム対戦で、2セット先取」といったものが該当します。
もちろん、ルールとレギュレーションどちらにも該当しうる部分もあるので、雰囲気でとらえてしまえば大丈夫です。
このコラムで言いたいこと
結論から言うと、現在自分たちがモルックの試合や大会で見ている・従っているルールは、少なからず見直しが必要であるということです。
なぜかというと、モルックをスポーツとしてとらえ公平に運営していくためには考え直したほうがいいルールや、ルールブックには記載されていなかったり、記載自体が曖昧であるものが存在しているからです。
そのため、現状の決まりごとを厳密に守ることを目指すのも決して誤りではありませんが、守っていくに値する規定に<更新>していくといった方向の作業も必要である、と考えています。マイナスなイメージは持ってほしくないので、あえて「修正」や「訂正」ではなく<更新>というワードで表現しています。
なぜ「今のルールを守る」ではなく、「ルールの更新」なのか
なぜ今、ルールの更新は必要になるのでしょうか。それは、モルックが「スポーツ競技」としての性格を強めているからです。
ストイックに向き合うプレーヤーの増加
モルックはもともとレクリエーションとしての性格が強く、大会こそ存在していましたが楽しく交流するためのツールとして活躍していた印象があります。2019年~さらば青春の光・森田さん率いるキングオブモルックの登場によってモルックブームが到来しますが、森田さんがお笑い芸人であることも相まって、このときもスポーツとレクリエーション・遊びのツールの認識がせいぜい半々くらいで周知されていた記憶があります。
これも私の個人的な認識なのですが、その後、ここ2~3年になって参加してきたプレーヤー、特に10~20代くらいの若い選手に多いですが、モルックを完全にスポーツ競技、相手と勝負して上回ることを目的とした物事、という認識で参加している層が増えたと思います。彼ら(彼女ら)は森田さんやキングオブモルックのブームを直接ではなく二次的に影響をうけモルックを始めていることもあり、どうすれば上達するか、どうすれば大会で勝つことができるかといったことをストイックに考えているように見えます。今までもそういった「ガチ勢」は存在していましたが、その割合が増したといった解釈で良いと思います。
守る人とそうでない人との溝
勝利をひたむきに目指すプレーヤーが増えてきたこと、また既存の選手も全体的なレベルが上がり競技としてのプレーレベルが底上げされていることによって、ルールの細かい点に対しての言及がSNSなどで増えるようになってきました。
それぞれの選手は勝ちたいので、試合における細かい出来事に対しても気を配るようになります。なぜなら、些細なことであってもその後の試合展開に大きく影響することを知っているからです。
スキットルの起こし方が少しでも異なれば、それを倒せる可能性が変わるし、より投げやすくするためにモルッカーリで区切られた投てきエリアのギリギリに立ちたいと考えます。より良い選択肢を見出すために、できるだけ長くしっかり考える時間がほしくなります。
いっぽうで、ルールブックにはスキットルの起こし方や、投てきエリアの定義、投てき時間の規定があるので、それを守らなければなりません。なので自分が守っているのに相手がそうでない、と気付いたときにモヤモヤした気持ちになり、直接は言いにくいので帰宅後そのことをSNSに書く、というケースがよくあると思います。
守らない、ではなく教えてもらえなかったが正しい
ただ、彼らが「ルールを守らない人」と認識しモヤモヤを抱いている相手は、「守らない人」ではないと、私は考えています。ではなんなのかというと、「ルールを知らない人」であり、もっと言えば「知る機会をもらえなかった人」「教えてもらっていなかった人」です。
モルックを新しくはじめる際に体験会や練習会に参加するケースが多いですが、初めての参加者には細かいルールまでは周知しない、というのが現在のモルックの文化としてあると思います。もちろん最初から要点を押さえて教えているケースもあるかと思いますが、まずは投げる楽しさに親しんでもらうために細かいことは省く、という接し方が多くなりがちです。モルック自体も「ルールが簡単、誰もが始められる」という触れ込みで知ることが多いので、初心者からしたら細かい規定があるとは想像しづらいと思います。
さらに自分から日本モルック協会のHPに行き、そこからルールブックを探して内容を把握する、といった調べごとをする方はかなり稀だと思いますし、初めて参加した大会で色々と知ることになる、というケースは少なくないと思います。
また大会の場であっても対戦相手に対して細かいルールの指摘をするのは心理的な負担があります(ある種嫌われ役を買って出る行為です)。なのでますます競技面でのルールを知る機会は減ります。そう考えていくと、たとえ技術や実力のある選手であってもルールについて知らない部分がある、というのは珍しいことでもなさそうです。
そういう「教えてもらえなかった人」にとっては、なかなか知り得なかった規定によって非難されたりSNSによって批判されることは、(ルールを知らなかったのが悪いといえばそうですが)あまり納得行かない、腑に落ちないと思います。
どうすればルールを知ることができるのか
おそらく、ルールに関してのSNSの「お気持ち」とされる投稿は、こういった認識の差から生まれていると思います。一方はルールを一所懸命おぼえたのに守らない人がいると考えていて、一方ではルールを教えてもらう機会がなかったのに指摘や批判され困惑する…いずれも悪意はないのですが、こういったズレによって不和が発生しているのではないでしょうか。
というわけで、早い段階でルールについて存在を認識し、大会や試合に参加するのであれば覚えてもらうといった働きかけが必要になると思います。
本当に運用ができるルールなのか?
じゃあどんどんルールを覚えてもらうようにしよう!と舵を切ろうとしたときに、また別の課題があると思います。それは、今のルールが運用不可能なものではないか?ということです。
ルールブックに完璧に沿ってプレーした例はない?
これも私の想像がはいっていて恐縮ですが、現在のルールブックに書かれていることを、完璧にこなして試合を運用している選手や大会運営はいないのではと考えています。具体的には以下のようなことを試合の中でしていく必要があるからです。
特にセルフジャッジだと審判無しでこなさなければなりません。
- 投てき時間は60秒とあるが、いつ時計が開始しいつ止まるかを把握しているか? ‐ ストップウォッチは相手が測るのか?相手がストップウォッチを不正に操作して実際にはまだ短いのに60秒だと見せかけていないといえるか?
- ストップウォッチを測りながら、自分の次の投てきを考えたり、倒れたスキットルを起こしたり、スコアシートに記入したりといった作業をこなせるのか?個人戦ではそのすべてを行わないといけないのか?
- 相手に投てきエリアから足がはみ出ていると指摘されたとき、それは本当であると納得できるか?第三者がいないのにフォルトとして受け入れられるか?
- 相手から「あなたのモルッカーリが足に触れたのでフォルトだ」と言われた際に、それが事実でないときに証明ができるか?争いをさけるためにこちらが泣き寝入りする以外に、穏便に進める方法はあるか?
たとえば時間まわりのケースだけ考えても、セルフジャッジ、というか聞こえがいいだけで「審判が不在の試合」についてルールのもとに進行されていると自信を持って言えるでしょうか?
こうした事柄から、ルールブックを完璧に遵守して試合が行われた例はほとんどないと考えています。最近ヨーロッパで開かれた欧州選手権でも、(特にタイムアウトを取った様子もなく)60秒を超えて長考していたシーンが見られました。
どうすればルールが遵守された試合ができるのか
ルールを遵守した試合を進行するためには、以下の2点が必要です。
- 運用が可能なルールに変更する
- 第三者、つまり審判が試合に参加する
- 誰もがルールを知ることができるよう情報公開する
運用が可能なルールに変更する
1投につき一律60秒は適当か?
これは具体的な話ですが、時間に関して「1投につき一律60秒以内」というのは、モルックの試合の流れとは相性が悪いです。
- 試合の序盤は考えることが少なく、10~15秒もあれば投てきが終わる
- 試合の終盤はじっくり考える必要があるので、60秒ではまったく足りず、さらに長考したい
といった感じでセットの後半になるについて考えるのに必要な時間は長くなっていきます。これに対して常に60秒というのは、やはりモルックの性格に合うとは言えません。モルックを観戦する側からしたら、無理やり60秒以内にしようとして最適でない選択をしてしまい、致命的な戦術ミスによって試合が大きく傾く/壊れてしまうよりは、練られた戦略を見たいので、例えば将棋で採用されている「持ち時間制」のほうがフィットすると思います。
この他にも、いざ厳密に守ろうとしたときに、モルックの試合の流れやおもしろさの本質的な部分とは矛盾しているルールが浮かび上がってくると思うので、それが改善ポイントと言えます。
審判が試合に参加する
今後さらにスポーツとしてのモルックが発展することによって、審判がいない状態ではどうにも判断できないようなケースが増えていくと思います。また審判がいないことによって、言い合いになった際の落とし所が見つからない試合が発生することも予想できます。
こうなると、やはりスポーツ、特に大会の場において審判がいないまま進行するには限界があります。第三者によって判定したり、言い合いになったさいに穏便に仲介するための存在が必要です。
審判を通してルールを覚える
審判をするには責任や間違ってはいけないという緊張感があり尻込みする方もいると思いますが、そういった方も含めて、(公式戦ではなくコミュニティ大会で)審判をする経験をしたほうがいいと思います。
試合でレフェリーを務めることで、ルールや試合の流れに対する理解度はグッと上がります。ただルールブックを眺めたり、審判が不在の試合で選手として参加するだけでは頭に入らないポイントも、体験とともに習得できるようになることでしょう。
また、大会に審判としてのみ参加するのは躊躇われると思いますので、選手としてエントリーしている大会について、自分が参加しない試合、負けてしまったあとの試合について審判を担当する、といった仕組みをつくることで、多くのプレーヤーが体験することができるようになります。
誰もがルールを知ることができるよう情報公開する
モルックのルールはルールブックに記載されているものが全てだと私も思っていましたが、実はそうではないようで、細かい運用方法については日本モルック協会が開催している「指導員講習会」の中で説明されています。
私は行ったことがありませんが、参加したプレーヤーがSNSに投稿している説明資料の画像の一部によると、ルールブックには書かれていない「特殊なケースでのスキットルの起こし方」「スキットルが<倒れているか>判定に関する特殊なケースの解釈」などの説明がされています。
こうした微細なルールに関しては確かに遭遇する確率は低いですが、発生しうる以上講習会に参加した方だけでなくプレーするすべての人が知ることができるよう、公開されているべきだと考えています。常に頭に入っていない場合でも、公開されていれば大会でそのケースに該当した際に、その場で解決することができます。
現在のルールについて
現在のルールは上で書いたように日本モルック協会が発行しているルールブック(リンク)に記載されているものですが、元になっているのは国際モルック連盟が発行しているルールブック(英語)です。両者の内容を比較すると、国際ルールブックをもとに日本のルールブックが作成されていることがわかります。
国内独自のルールを考えてもいいのでは?
とはいっても、国際ルールがあるから国内のルールを独自化することができない、というのは違うと思います。根幹的な部分についてはもちろん変更すべきではないと思いますが、ここまでに挙げたような細かな規定については独自に更新したり内容を変更して、プレー環境を良くするために改編するのは「やってもいいこと」ではないでしょうか。
現状、モルックの国際試合の割合はとても少ない(世界大会しかない)し、世界大会に参加するのは(日本開催でない限り)ごくごく一部の選手に限られます。なので国際大会に参加する場合のみ注意すればよいのであり、国内においては積極的なルールの改善をしていくべきです。
おわりに
今回は文章全体が長くなってしまわないように、あえて具体例にはあまり突っ込まない形でルールに関しての論点を書いてみました。簡潔に説明するのはそれでも難しいですが、今のルールを愚直に守るというよりはそもそも改善する余地はないのかを探す、ということを提案しています。他のスポーツでそんなことを言ってしまうと相当な危険視をされて然るべきですが、スポーツとしての日が浅いモルックではむしろ検討されていくのが健全です。